シンガポール 医療体制 新型コロナウイルス

シンガポールの新型コロナウイルス対策【医療体制】

シンガポールの新型コロナウイルス対策【医療体制】シンガポール

※(2月26日更新:記事下に報告書PDFをダウンロードできるように更新)

2020年2月7日シンガポール政府は、DORSCON(感染症警戒レベル)を黄色からオレンジに引き上げました。

それまで、新型コロナウイルス感染者は中国本土からシンガポールに入国してきた者か、またはそれらの者と濃厚接触した者に限られていました。

しかし、2月7日には、これらの者とは関連性がない者が新型コロナウイルス感染者としてシンガポールで確認されたのです。

これにより、シンガポール政府は新型コロナウイルス感染症が新たな【二次感染】ステージに入ったものとして、警戒レベルを引き上げました。

これに伴い、シンガポール政府は医療体制を強化し、それまで新型コロナウイルス検査対象を中国本土渡航者もしくは濃厚接触者に限定していたものを、それ以外の者へも拡大し、フローチャートにして各病院・医療関係者に通達を出しました。

シンガポール政府の、ウイルス封じ込めのための積極的な予防措置によって、2月24日現在未だに死者を出しておりません。

この記事では、シンガポールの新型コロナウイルス感染症に対する医療体制について、ご紹介していきます。

シンガポールの新型コロナウイルス対策【医療体制】

二次感染者が発見される前の新型コロナウイルス感染疑いのある患者の選定基準

a)肺炎の疑いの慢性的な兆候と症状がある患者、もしくは、呼吸困難を伴う重い呼吸器感染症の患者、かつ、発病前14日間以内に中国本土に渡航歴がある者

b)重症さの度合いにかかわらず急性の呼吸器疾患を患った者で、発病前14日間以内に

i) 中国の、武漢市を含む湖北省、もしくは、杭州市を含む浙江省を訪れた者;もしくは
ii)中国本土の病院を訪れた者;もしくは、
iii)新型コロナウイルス感染者に濃厚接触[2]した者;もしくは、
iiii)中国本土からの最近の旅行者(過去14日間の旅行歴)と仕事[3]で頻繁もしくは濃厚接触のあった者


( MOH CIRCULAR 29/2020(シンガポール保健省通達29/2020)2020年2月4日より引用)

[2] 濃厚接触者とは以下のように定義される。
 ・新型コロナウイルス感染者にケアを施した者(医療従事者、家族、また同様の身体的接触のあった者を含む)
・新型コロナウイルス感染者と同じ場所に滞在していた者(家族等)

[3]中国本土からの旅行客と定期的なやり取りをしたホテルやショップ・観光等でホスピタリティの第一線にいたスタッフ、ビジネス会議/商談に出席した者

2月4日シンガポール保健省が各医療団体に出した新型コロナウイルスを検査する患者の基準についての通達は、肺炎の症状がある患者のうち「中国本土渡航歴がある者、もしくは、濃厚接触者」に限定していました。

これは、2月24日現在日本の厚生労働省が出している新型コロナウイルス感染疑い患者の検査する基準とほぼ同じ内容です。
(厚生労働省が各自治体、医療機関に出している指示については以下の記事にまとめました。)

この時は、新型コロナウイルスの感染力についてはまだわかっておらず、中国本土で感染してきた一次感染者のみ発病するのだとされていたのでしょう。

二次感染者が発見された後の新型コロナウイルス感染疑い患者の選定基準

上記の基準に当てはまらない患者(中国本土渡航歴・濃厚接触ともにない者)のうち、

  a)(i)医学的に不安定な状態(medically unstable)である者、もしくは、
(ii)肺炎であると臨床的に査定された者は、指定救急病院に転送されなければならない。医学的に不安定である患者は、救急車によって指定病院に搬送されなければならない。医学的に安定しているが肺炎の疑いがあるとされた者は専用の救急車サービスによって搬送されなければならない。

  b)医学的に安定しており、臨床的に肺炎でないと査定されたものは、5日間の自宅健康監視を行い、他の居住者との接触を避け、症状が回復に向かわなかった場合、再診を受けることができる。

MOH CIRCULAR 44/2020(シンガポール保健省通達44/2020)2020年2月11日 より引用)

2月11日、シンガポール保健省は国内で新型コロナウイルスによる二次感染者が確認されたことにより、上述1)にある選定基準(中国本土渡航歴・濃厚接触のいずれかのある患者)はそのまま有効としながらも、この基準に当てはまらない患者(二次感染の疑いのある者)に対する一般開業医や総合病院といったプライマリーケアの医療機関へ新たな臨床ワークフローを指示を出しました。

図1:二次感染の疑いのある者に対するプライマリーケアの医療機関へ新たな臨床ワークフロー

このワークフローは、一般開業医や総合病院、すなわち国から指定された新型コロナウイルス対応の病院以外に対して作成されたものです。
このフローによると、「咳・発熱・ノド痛・呼吸困難等の気道感染症の症状がある患者」が一般開業医の病院を訪れた場合、医師の診断によって、「肺炎の疑いにある患者」もしくは、「医学的に不安定な状態にある患者」は、政府が指定した救急車によって、救急医療機関に転送するように指示が出されています。

ここから読み取れるのは、以下の点です。

肺炎の疑いがある患者は『すべて』、新型コロナウイルス対応ができる指定医療機関へ搬送される
(隔離施設のある病院で、個人防護具(PPE)を適切に身に着けた医療従事者が処置を施す。随時、新型コロナウイルスの疑いがある者を検査していくのだと考えられる。)

②一般診療の開業医と新型コロナウイルス対応の指定医療機関との連携が明らかになっている(この連携制度については後述)。

③医師の診断によって、指定医療機関へと搬送される際、救急車が使用される
(二次感染者疑いのある者が、タクシーや公共交通機関、または徒歩で指定病院に向かった場合、ウイルスを拡散させ、新たに感染させる恐れがあるからである)

④比較的軽症な者も、医師より診断書(MC)が提供され、5日間の自宅待機が指示される。新型コロナウイルスの潜伏期間は約2週間ということが判明しており、軽症な患者も徐々に重症化する恐れがあるからである。
その間、ウイルスを拡散させる恐れがあるため、自宅にて健康監視させる。

公衆衛生準備クリニック(Public Health Preparedness Clinic :PHPC)

2月17日、シンガポール保健省は、新型コロナウイルス感染者の早期発見と早期対処のために、一般開業医や総合病院と、指定医療機関をつなぐ医療システムを発動しました。

公衆衛生準備クリニック(Public Health Preparedness Clinic、以下PHPC)に指定された800を超える一般開業医(GP)クリニックが、発熱、咳、のどの痛み、鼻水などの呼吸器症状のある患者に対して治療を提供します。

その診療時に、肺炎の疑いのある患者は上記ワークフローに従い、指定医療機関へと患者を転送します

PHPC体制とは

公衆衛生上の脅威に備えた医療体制のシステムのことです。

PHPC 体制はインフルエンザのパンデミックや大気汚染、炭疽病の発生といった公衆衛生上の脅威が生じた場合等に発動されます。

(事前にPHPCとして登録された)外来診療による医療を担当する1次医療機関(かかりつけ医・一般開業医、総合病院等)はこのPHPC体制の下に置かれ、政府の指針に沿った統一された水準の医療サービスを提供することが可能となります。

今回、2月17日にシンガポール保健省によって発動されたこのPHPC体制で、新型コロナウイルスをより適切に検出および管理、封じ込めをしていきます。

シンガポール保健省のPHPC体制への支援

PHPCに加入している医療機関には、各医療機関の医療従事者が公衆衛生上の脅威から十分に守られるために、シンガポール保健省から物資(医療従事者への個人用防護具や感染予防措置)の提供が行われます

また、PHPCの医療機関には薬やワクチンなどが国の備蓄品から優先的に配給がされます。

なお、シンガポール保健省はPHPC加入の医療機関に対して講習・トレーニングの実施を通じて、平時であっても公衆衛生上の緊急事態への備えを行っています

【参考】シンガポール保健省からPHPCへのサポート
医療保護具・医療従事者への個人用防護具の最大12週間の無償提供
・医療従事者の感染予防のため、インフルエンザ抗ウイルス薬を最大6週間無償で提供
薬・ワクチン・患者の治療のために、適切な抗ウイルス薬や抗生物質、ワクチン等を国の備蓄品からの優先的な配給
・上記の場合でもPHPCは平時と同様に抗ウイルス薬や抗生物質、ワクチンを調達することも可能
研修・再教育制度PHPCの医療従事者がシンガポール保健省のガイドラインに精通し、必要な技術の獲得・維持向上できるように、各種ガイドラインの整備やeラーニングコースの提供、ワークショップの開催等を行う

PHPCに加入している病院の探し方

HPCに加入している医療機関は、下記のサイトで自分の住所等を入力して調べることができます。

PHPCに加入している病院の探し方

体調不良時の個人の対応について

シンガポールでは、風邪の症状(発熱、咳、喉の痛み、鼻水)が見られる場合には、まず最寄りのPHPCを見つけ診察を受けることとなっています。

診察の際にはシンガーポール国民及び永住者は、10ドル(日本円にして800円ほど)(高齢者等は5ドル)で、医師による診察と治療が受けられます。

診察により肺炎の疑いがあると診断された場合には、新型コロナウイルスの治療体制の整っている病院を紹介され、その病院へと救急車サービス等を利用して搬送されます。

肺炎の疑いがない軽症な場合には、診断書(MC[1])を取得し5日間の自宅療養をし、5日経過後も体調が回復しない場合には、上記で診察を受けたPHPCを再度受診し、場合によっては指定された病院で追加の検査を受けることになります。


[1] シンガーポールの労働者には有給休暇(Annual Leave; AL)とは別に有給病欠(Sick Leave; SL)が付与されています。有給病欠は医者の診断書(Medical Certificate)を提出しないと行使できません。

シンガポール居住者向け新型コロナウイルス対策フローチャート

まとめ

シンガポール政府の新型コロナウイルスに対する医療体制について、まとめました。
ポイントは以下の4点です。

①中国本土渡航歴のある者・濃厚接触のある者以外の二次感染者疑いのある者も、新型コロナウイルス対応の指定医療機関に搬送される。

一般開業医(かかりつけ医)と指定医療機関との連携が明確に政府によってシステム化されている。

③「あ、私、新型コロナウイルスに感染してるかも…」と思った個人がどう行動をとればいいのかが明確になっている。PHPC体制に加入している一般開業医に診察してもらい、肺炎の疑いがあると診断されれば、指定医療機関に搬送され、その他のウイルスによる病気であった場合は、その病院で治療を受ける。

④軽症であった場合も、5日間の自宅観察を指示される。その間は、医師より診断書を発行してもらい、有給病欠を申請できる。

ここでシンガポール政府の対策の基軸になっているのは、新型コロナウイルスの「早期発見」です。


「検査キットがないから、新型コロナウイルス感染の疑いがあるが、帰国者・接触者でない患者は一般診療を勧める」という厚生労働省とは全く異なる立場をとっています。

おそらく、シンガポールでも検査の個体数は限りがあると予想されますが、まずは新型コロナウイルス対応ができる指定医療機関に、すべての感染疑いのある患者を搬送しています。

これによって、
①疑いのある患者隔離される、
②ウイルス拡散を防止できる、
③経過観察が適切な個人防護具を身に着けた医療従者によってなされる、
④疑いが濃くなれば即検査、

といった手順で、二次感染者の早期発見、適切な処置がなされると考えられます。


この体制によってもたらされる効果は、

国民を過度の不安に陥れない
病院のたらい回しによる患者のストレス、また病状の悪化を防ぐ。
・検査してもらいたいために、患者が複数病院を巡ることによって、ウイルスを拡散させるのを防ぐ。
・一般開業医・指定医療機関、双方の医療従事者をウイルス感染から守る
・有給病欠を強制的に取らせることで、軽症であっても感染疑いのある者に仕事をさせて、ウイルスを拡散することを防ぐ。

等が挙げられます。

他にも、シンガポール政府は、

①A*STAR(シンガポール科学技術研究局)にて、シンガポール製のウイルス検査キットを開発し、2月1日〜2日の間に指定医療機関に合計約5000セットを整備しています。
(参考記事:https://www.straitstimes.com/singapore/health/coronavirus-made-in-singapore-diagnostics-test-implemented-at-hospitals-here
これによって、二次感染者疑いのある者も検査できる体制が整えられています。

②2月18日シンガポールは新型コロナウイルス感染症の影響によって、経済の停滞が懸念されるため、様々な経済政策を打ち出しました。
対象は個人から企業レベルで、その予算は40億シンガポールドル(日本円で約3200億円)です。
この経済対策の中には、5日間の有給病欠をとる患者さんがいる会社への支援も含まれています。
(参考記事:https://www.gov.sg/article/coping-with-covid-19-economic-measures

今回の報告は以上です。


オンライン上で入手できる情報と、医療関係者への聞き取りによってこの記事を書きました。
誤った解釈や情報があったときはご容赦ください。
日本の政府、各自治体は外交ルートでシンガポールに医療体制整備等の方法の詳細を教えてもらえると思います。
シンガポールは2003年のSARSの経験より、感染症対策と体制強化に尽力してきました。
その知見から、日本は学ぶ事が多いのではないでしょうか。

今、日本では検査キットが足りないからと二次感染の恐れがある患者さん方が、新型コロナウイルス対応の指定医療機関での治療を受けることができない地域があるそうです。

現場レベルは混乱しているという話も耳にします。

どうか政治主導で新型コロナウイルス対策の医療体制強化と経済支援をお願いしたいと思います。

このブログ記事を報告書風にまとめました。
もしよかったら、各自治体・議員さんに送付してください。

⬇(こちらも読んでみてください)検査拒否の理由は、厚労省がそう指示を出しているからです!

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